アウトプットノート

物語、本、歌詞、表現を中心とした頭の中のメモノート。

『冬のソナタ』~象徴性について考える~

〇おすすめ本

 今回皆さんにおすすめしたい一冊は、『『冬のソナタ』に見られる「社会」と「個」の相克 登場人物の役割を中心に』です。この本は2013年、冬のソナタから10年という節目の年に出されました。『冬のソナタ』を見た人が楽しめるのはもちろんのこと、一般的な物語分析にも使える知識が沢山詰まっています。この本はタイトルの通り、冬のソナタという物語は「社会」と「個」という対立構造を軸に出来ているという主張を基に進められています。その主張の一環で語られるポラリス」と「車」の象徴性や最終回の季節が「冬」でない理由など、興味深い考察が盛りだくさんの一冊でした。以下より、その二つの考察を中心に(私の解釈も入れながら)紹介していきます。 

・「ポラリス」と「車」

 『冬のソナタ』では、チュンサン(男)、ユジン(女)、サンヒョク(男)、チェリン(女)が主要人物で、結末から言うとチュンサンとユジンが結ばれるドラマです。

 何気なく見ていると気にならないことですが、ユジンは主要4人の登場人物の中で「車」を持っていない唯一の人物です。他の3人は運転シーンが頻繁に描かれるのですが、彼女の場合、移動手段が車で送ってもらうか、バスなどの交通機関を利用するまたは自分の足で歩くしかないのです。ユジンが仕方なくタクシーを拾って帰宅するシーンも何回かありましたね。ユジンは、交通機関で決まった道(学校や職場)を往復する生活で、自分の車で遠くまで移動できないのです。だからこそユジンは人から見つけられやすい目印的存在=ポラリス北極星なのかもしれません。ユジンは自分の設計会社を「ポラリス」と名付けます。ポラリス北極星)は道に迷ったとき目印になる星です。ユジンが「車」を持たないという設定が意図的であると仮定すると、ポラリス同様「不動」のイメージを作り上げているのかもしれません。

 ちなみに、チュンサンがユジンにあげたポラリスのネックレスは、ユジンの意志とは関係の無いところで壊れたり、最終的にはチュンサンによって海に投げ込まれたりとサンヒョクがあげた婚約指輪のような絶対的で確かな物ではありませんでした。このことは、最後に二人をつなぐのは「物質」ではなく目に見えない「心」であったと考えることもできるのではないでしょうか。 

・最終回の季節

 冬のソナタでは、冬らしく「雪」が重要な役割をしています。初恋のモチーフであることはもちろん、このドラマにおける「雪」には「現実を覆い隠す」働きがあると著者は言います。例えば、スキー場は2人にとって現実逃避の場所でもあったからです。

 ではなぜ、最終回の季節が冬ではないのでしょうか。これまで視聴者にとって「雪」は、二人の関係に外せない象徴的なものだったはずです。最終回では二人の間に雪はありません。現実を覆い隠す「雪」の存在の必要性がなくなった、つまり二人の永遠性が現実のものとなったことを表しており、だから最終回はあえて雪の降らない季節を選んだのではないでしょうか。最終場面では、「雪」もなければ、「ポラリスのネックレス」もありません。そこにあるのは目に見えない二人の「心」だけ…。

 失明したチュンサンが気配でユジンに気付き再会を果たしたところで物語は閉じられます。最近の現代ドラマでここまで「切ないハッピーエンド」も中々無いのではないかと思っています。

 この春は、同監督の四季シリーズ『春のワルツ』も見ていくつもりです。この作品にも『冬のソナタ』のような繊細な音楽や、水彩画のような美しい情景描写があることを期待しています。

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追立祐嗣(2013)『『冬のソナタ』に見られる「社会」と「個」の相克 登場人物の役割を中心に』花伝社

*太字は個人的な解釈です。