アウトプットノート

物語、本、歌詞、表現を中心とした頭の中のメモノート。

ドラマで国語!

 先日、大河ドラマ「おんな城主直虎」の第12話を観ました。最愛の直親を失った直虎に向かって、和尚はこのような慰めの言葉をかけます。

「己を責めたとて、死んだ者は返らん。じゃが、生きている者は死んだ者を己の中に生かすことはできる。例えば偲ぶことで、例えばならうことで。時にはならわぬことで。他にはないかのぅ…」

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 和尚の声で何度もこのセリフを脳内再生している時、ふと思いました。このセリフを文字に書き起こすとしたら、「いかす」「しのぶ」「ならう」をどの漢字で、あるいはどのように表記するだろうか…と。上記に示したものは迷いながらも最初に私が頭に思い浮かべた表記です。特に迷ったのが「ならう」です。「習う」か「倣う」かで迷ったのでとりあえずひらがなにしておきました。

 以下は、同音異義語をそれぞれ辞書で引いて違いを明らかにしたものです。

 ・忍ぶと偲ぶ

忍ぶ…つらいことをじっとこらえる。耐える。我慢する。

偲ぶ…遠く離れたものや物事を感慨深く思い起こす。遠く思いをはせて懐かしがる。

 文脈からみても「偲ぶ」が適切だろうと思います。

 ・習うと倣う

習う…知識・技術などの教えを受ける。教わる。また教わったことを繰り返し練習して身につける。

倣う…すでにある物事をまねてその通りにする。手本としてまねる。

 これが微妙な違いだと思うのです。文脈的には、時には亡くなった人から学び、時には反面教師として真似しないといった意味になるのではないでしょうか。そうだとすると、最初の「ならう」は「習う」で、二つ目の「ならう」は「倣わず」と表記することもできるかもしれません。

 ・生かすと活かす

 辞書で「いかす」を調べると、これも辞書によって違いますが、『明鏡』では生かす(活かす)と表記されています。ではどちらも一緒なのでしょうか。補足説明を読むと、役立てる、特性を引き出して生き生きしたものにするなどの場合は「活かす」が好まれるそうです。

 

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 ちなみにノベライズ版で表記を確認してみました。

 「己を責めたところで、死んだ者は帰らぬ。じゃが、生きている者は、死んだ者を己の中で生かすことができる。例えば、偲ぶことで……」(省略)「例えば、習うことで……」と昊天を見、「時には、習わぬことで……」と傑山を見る。「ほかには、ないかの?」

 なるほど。「習う」はこっちでしたか。先ほどまで迷っていなかった「かえる」ですが、「生き返る」の「返る」ではなく、帰宅する意の「帰る」でした。「帰らん」と表記する方が二度と帰ってこないという現実の辛さが文字から強く感じられます。一般的な漢字を使うことで、読み手の感情に直接訴えかける効果を狙っているのかもしれません。

 転生の場合だと、ぐるり巡ってかえってくる時に使う「還る」の方がイメージに合うかもしれません。「かえる」だけでも帰る、返る、還ると迷ってしまいます。

 音声言語が中心のドラマでは私たちの解釈の恣意性が保証されますが、文字言語の表記になると、書き手の恣意性に気づかされます。

 同音異義語が多いのは、日本語の特徴なのでしょうか。英語や他の言語だとどのようなニュアンスとして受け止められるのかなどを考えてみるのも楽しそうです。

 管理人はここ最近、「1日10分韓国ドラマを英語字幕で見る」というカオスな時間を己に課し、楽しんでいます(笑)